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交通事故を人身扱いにしないリスク|扱いの違いを加害者・被害者のどちらも解説

監修記事

鍋谷 萌子

ビジネス実務法務検定3級

だれでも当事者となりうる「交通事故」ですが、これを人身事故にするかしないかでその後の対応が変わってきます。

ここでは、交通事故を人身扱いにしないとどうなるのかに加えて、加害者に「人身扱いにしたくない」と言われたときの対処方法を紹介します。

また、「人身or物損?を決めるのはだれ?」という話や、被害者の立場に立ったとき「結局はどうすればいいのか」についても触れますので、被害者あるいは加害者になる前にぜひご一読ください。

交通事故を人身扱いにしないとどうなる?

交通事故を人身扱いにしないとどうなる?

本来は人身事故であったはずの交通事故を、物損事故として処理した場合はどうなるのでしょうか。

これを加害者側・被害者側、両方の視点から解説します。

加害者側にはメリットが大きい

加害者の立場になった場合は、物損事故で処理してもらうメリットが大きいといえます。

なぜなら物損事故ならば点数が加算されませんし、罰金や刑罰が課せられることもありません。点数がかさめば免許取り消し+免許の再取得に制限期間を設けられることがありますし、罰金や刑罰も軽いとはいえません。

また、物損事故の場合は賠償金も低額で済みますし、示談交渉の時間も大きく短縮されます。

ただ、本来ならば人身事故であるにも関わらず物損事故で処理してしまうと、後になってからもめる可能性はあります(これについては後述します)。

被害者側にはデメリットが大きい

では逆に、被害者の立場に立った場合はどうでしょうか。人身事故を物損事故として処理した場合、「加害者側には多くのメリットがある」ということからも想像はつくかと思われますが、被害者にとってはデメリットしか存在しません

交通事故の示談金・慰謝料は支払われるが低額

物損事故であっても、示談金が支払われる場合はあります。しかし人身扱いとなったときに比べてはるかに低額です。

低い場合は数万円程度にとどまりますし、高くても30万円程度がひとつの上限となります。

また、物損事故となった場合、よほど特殊な事例(「我が子同然に可愛がっていたペットが交通事故で死んだ」「芸術品や仏壇など、極めて高い精神性を有するものが壊された」など)の場合を除き、慰謝料は支払われません。

自賠責保険からの支払いも受けられない

車の所有者すべてに加入が義務付けられている保険として、「自動車損害賠償責任保険(『自賠責保険』とも。以下では略称で統一)」があります。この自賠責保険は、交通事故の被害者となった人に最低限の補償をするべく作られた保険です。

この自賠責保険の対象となるのは、「対人」のみに限られます。つまり、本来は人身事故であるにも関わらず物損事故で処理されてしまった場合、この自賠責保険の支払いさえ受けられなくなってしまうのです。

後の証拠となり得る「実況見分調書」を作成してもらえない

交通事故には「過失割合」という考え方があります。これは、「被害者側にどれくらいの落ち度があって、加害者側にはどれくらいの落ち度があったか」を表す割合です。

この過失割合によって保険金の支払金額も変動するため、交通事故においてはもっとも重要な考え方だといえます。

そしてこの過失割合を決める手助けとなるのが、警察の作る「実況見分調書」です。警察が交通事故の起きた現場に来て、状況を見つつ作成するものなのですが、物損事故の場合はこれが作られません。そのため後でもめたときに、なかなか話し合いが決着しなくなります。

関連記事物損事故で警察を呼ばなかった場合どうなる?交通事故では早めに届出しよう

加害者に人身扱いにしたくないと言われた場合の対処法

加害者に人身扱いにしたくないと言われた場合の対処法

それでは、自分が被害者の立場で、加害者側から「人身扱いにしたくない!」と言われた場合はどうすればよいのでしょうか。

このように言われたときの対応方法は、「無視して警察を呼び、病院に行く」です。ただ相手の泣き落としや乱暴な態度に気圧されて、物損扱いにしてしまったという人もいます。

その場合は、下記の対応をとります。

交通事故による怪我である旨の診断書を作成してもらう

まず可及的速やかに病院にかかり、交通事故による怪我であることを証明してもらう診断書の交付をお願いします。なおこの診断書は医師しか出せませんから、接骨院などに頼ることはできません。

診断書の交付を受ける期間の縛りは、法律上はありません。しかし時間が経てば経つほど、交通事故と怪我の因果関係を証明することは難しくなります。そのため可能な限り早く病院に行き、診断書の交付を受けましょう。

POINT

健康を守るためにも必要

この対応は、物損事故を人身事故に切り替える手続き上必須となるだけでなく、被害者となった人の健康を守るためにも必要なものです。

診断書を警察に提出し人身への切り替え希望を伝える

医師による診断書の交付を受けられたなら、それを持参して警察署に行き、提出します。提出段階で「人身事故への切り替えを希望している」という旨を伝えましょう。

また担当者の不在による二度手間を防ぐために、事前に訪問の連絡をしておくとスムーズです。

この「診断書の提出」にも、法律上の時間的制約はありません。しかし診断書の交付のときと同じで、あまりにも時間が経ちすぎていると、人身事故としての処理が難しくなる場合もあります。

ちなみに提出までの期限の目安として、「交通事故が起きてから10日以内」としている弁護士もいるので、これに従うとよいでしょう。

なお、余談ではありますが、自賠責保険の請求が認められるのは「事故後3年以内」と決められています。

実況見分に立ち会い事故状況を詳細に伝える

上記では、「物損事故の場合は実況見分書が作成されない」としました。言い方を変えれば、人身扱いになった場合は実況見分書の作成が必要となるということです。

物損扱いから人身扱いになる場合は、後日ではありますが、この「実況見分」が改めて行われることになります。

実況見分の際には、当事者の立ち会いが求められます。これはあくまで任意のものであるため、断っても法律上は問題ありません。

しかし当事者の片方が実況見分に立ち会わないと、相手の意見ばかりを取り上げられる可能性があります。そのため、よほど特殊な理由がない限りは、実況見分に立ち会うべきだといえます。

軽い接触事故程度でも人身扱いにしたほうが良い

軽い接触事故程度でも人身扱いにしたほうが良い

「軽い接触事故にすぎず、今は痛みが出ていない」という場合でも、「接触した」という事実があれば、初めから警察を呼び、その旨を伝えるとよいでしょう。

上でも述べた通り、初めに物損事故として処理した交通事故を人身事故扱いに切り替えることには、手間と時間がかかるからです。

また、物損事故を人身事故に切り替える場合、実況見分書の作成が「後日」になってしまいます。このため、加害者・被害者両方が、食い違った主張をしてしまう可能性も高くなります。

その場の示談には応じないように注意

物損事故の場合、警察を呼ばずにその場で示談してしまう人も多くいます。加害者側はもちろん、被害者側も「急いでいるし痛みもないので、いくらかもらえばもういいです」と警察を呼ばずに終わらせてしまうこともあります。

しかし交通事故が起きた場合、警察を呼ぶようにと道路交通法で定められています。また交通事故の場合は、上でも述べたように、後日になって痛みが出てくる可能性もあります。

たとえ結果的に物損事故として処理される事例であっても、自分の身を守るためにも、警察を呼ぶようにしましょう。

また加害者の立場となったときも、自分から警察を呼ぶことで後で起こるかもしれないトラブルを未然に防げます。

交通事故が人身扱いか物損扱いか最終的に決めるのは警察

交通事故が人身扱いか物損扱いか最終的に決めるのは警察

ここまで、「人身事故を物損事故として処理した場合に、加害者側と被害者側に起こること」「物損扱いから人身扱いに変えるための方法」について紹介してきましたが、そもそも人身事故か物損事故かを決めるのはだれなのでしょうか。

この答えは、「警察」です。

第三者である警察が、その交通事故が物損事故であったか人身事故であったかを判断するわけです。つまり、たとえ加害者が「これは物損事故である」と力説しても警察が「人身事故である」と判断すれば、その交通事故は人身事故として扱われます。

また逆に、交通事故を被害者が「人身事故だ!」と主張しても、警察は物損事故として処理することもあるということです。

関連記事交通事故の物損事故から人身事故への切り替え方法|違いと処分・リスクも解説

交通事故のあと人身扱いにしないかは慎重に検討しましょう

交通事故のあと人身扱いにしないかは慎重に検討しましょう

交通事故の当事者となった場合、安易に物損扱いにしてはいけません。警察を呼んできちんと処理をする必要がありますし、人身事故の場合はそのように処理をしてもらわなければなりません。

特に自分が被害者側の立場になったときには、気を付ける必要があります。

この記事を監修したのは…

交通事故関係、弁護士事務所・クリニック等でのコラム執筆を数多く経験。確かな情報収集力を元に、常に正しく信頼のおける情報を「誰であっても理解できるかたちで」わかりやすく丁寧に解説していきます。

この記事の執筆者

ライター / 鍋谷 萌子
ビジネス法務検定資格取得者。赤本を元に交通事故関係の記事を多数作成してきました。弁護士事務所・クリニックなどでのコラム作成経験が非常に豊富です。確かな情報収集力を元に、常に正しく信頼のおける情報を「だれであっても理解できるかたちで」、分かりやすく丁寧に解説していきます。

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