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人身か物損かは誰が決める?加害者が物損で済ませたい理由や切り替えのメリット

監修記事

鍋谷 萌子

ビジネス実務法務検定3級

人身事故か交通事故かによって、被害者が受けられる補償・保証は大きく異なります。

ここでは、そもそも人身事故と物損事故の違いや、なぜ加害者が物損事故で済ませたいと願い出ることがあるのかなどを解説します。

また、物損事故で処理される場合に被害者側はどうなるのか、物損事故から人身事故に変えるための方法はあるのかにも触れますので、交通事故の加害者・被害者の立場になったときのために、基本を押さえておきましょう。

人身か物損かは警察が決める

切り替え

人身事故かそれとも物損事故かを決めるのは、基本的には「警察」です。ただし警察が勝手にこれを決めるわけではありません

警察は、交通事故の連絡を受けると移動し、現場で実況見分を行います。そしてその状況にしたがって、交通事故証明書を作ります。

非常に重要なのは、「診断書」の存在です。「交通事故が起きたことによって生じた怪我であること」を立証するこの書類は、人身事故であったことを示す非常に重要な書類です。これを警察に提出することで、人身事故として取り扱われることになります。

なお診断書を交付できるのは医師だけです。柔道整復師などはこの診断書の交付を行うことはできません。

人身と物損の違いとは

物損事故と人身事故の違い

人身事故と物損事故は、非常に大きな違いがあります。物損事故は文字通り「物」に対する事故であり、人身事故は「人」を対象とする事故だからです。そのため、加害者が負うべき刑事責任や行政責任、そして被害者が受け取れる賠償金も大きく違ってきます。

まずは「賠償金の違い」から見ていきましょう。

物損事故で受けられる損害賠償は物的損害のみ

物損事故の被害者となった場合、請求できる損害賠償は「その事物の被ったことを補償するだけの金額」にとどまります。

ただしこれは、「壊れた車を修理するための代金しか払ってもらえない」わけではありません。

例えば、代車を借りるための費用や、積み荷がありそれが破損した場合(かつその積み荷が壊れた理由が交通事故にあると判断された場合)の補填費用なども損害賠償の対象となりえます。

人身事故では身体的・精神的損害も含まれる

人身事故の場合は、壊れた物(車など)はもちろんのこと、身体的な損害に対する補償もなされます。また、「治療を受けたにも関わらず、後遺症が生じることになってしまった」という場合は、治療費はもちろん、後遺障害慰謝料を受け取ることもできます。

加えて、精神的なダメージが著しい場合はそれに対しての損害賠償金も請求できます。

つまり、一部の特例を除き、物損事故よりも人身事故の方が請求できる損害賠償の範囲が広がります。

関連記事追突事故の怪我で通院することに…通院期間と慰謝料の関係を解説!

加害者は物損事故で済ませたい?その理由とは

デメリット

加害者の多くは誠実に罪を償おうとしますが、一部の加害者は(人身事故であるにも関わらず)物損事故として処理してほしい!と願い出てくることがあります。

なぜなら、物損事故とは異なり、人身事故の場合は重い刑事責任や行政責任が課せられる可能性が高いからです。また民事責任で支払うべき賠償金も高額になりがちです。職業が運転手などの場合は、状況によっては職を失うことになりかねません。

ひとつずつ見ていきましょう。

刑事責任によって罰金刑または禁固刑を言い渡される

加害者が負う「刑事責任」とは、社会の秩序を守るために負わされるものです。

罰金が科せられたり、禁固懲役が科せられたりします。

※禁固と懲役の違いは、刑務作業を行う必要があるかないかです。禁固の場合は刑務作業は義務ではありませんが、懲役の場合はこれが義務付けられます。

ただ、「自分(被害者)の傷もとても軽くて21日以内に治りそうだ」「きちんと謝罪を受けて、ごまかすことなく罪を償おうとする姿勢も見えるし、お金も払ってくれた」などのような状況で被害者が加害者の厳罰を望まない場合、状況によっては情状酌量が認められることもあります。

POINT

実際には執行猶予つきの判決を受けることも多い

交通事故の場合は、刑事罰が課せられたとしても実際には執行猶予つきの判決を受けることも多いといえます。この場合は、執行猶予期間に罪を犯さずに過ごすことにより、実際の刑の執行を免れることができます。

行政責任によって運転免許の違反点数加算などの処分を受ける

人身事故を起こした場合、「行政責任」も課せられます。よく耳にする「免許の点数」は、この行政責任と関係するものです。

交通規則に違反したり事故を起こしたりすると、点数が加算されます。違反が軽微な場合は反則金を納めることで刑事罰を逃れることができますし、反則金の場合は「前科」として扱われることもありません(罰金刑は前科となる)。

しかしこの点数が一定以上になったときに、免停や免許の取り消しといった処分が取られます。

たとえば、0.25ミリグラム以上の酒気帯び運転をした場合は、たとえ前歴がない人であったとしても、違反点数が25点となり1回で免許取消しとなります。

職業運転手は免許取り消しになってしまえばそのまま仕事を失うことになりますし、そうではない場合でも日常生活で車を頻繁に使っている人ならば生活に支障が出るでしょう。そのため、行政処分を免れるべく、物損事故での処理を希望する人もいるのです。

民事責任によって賠償金の支払いが発生する

人身事故の場合は、以下のような損害賠償金の支払いが発生します。

  • 被害者の物(車など)を壊してしまった場合はその修理費
  • 被害者が怪我をした場合はその治療費
  • 被害者が受けた精神的苦痛に対する慰謝料
  • 事故が起こっていなかった場合に被害者が得られた利益を補填するための費用

基本的にこれらは加害者の加入する保険(自賠責保険任意保険)によって支払われますが、それでもなお支払いきれない場合は、加害者自身の負担で支払う必要があります。

なお、故意に事故を起こしたり、加害者に重大な過失があったりした場合は、自己破産も認められません。

現在はほとんどの人が任意保険に入っているのですが、それに入っていない人や、「なぜ自分が支払わなければならないのか」と不満を抱いている人は、人身事故としての処理を嫌う可能性もあります。

被害者側は人身事故として扱われたほうがメリットが大きい

矢印

このように、物損事故で処理されることは加害者にとってはメリットが大きく、逆に被害者にとってはデメリットが大きいといえます。言い方を変えれば、人身事故として処理される方が、被害者にとってはメリットが大きく、加害者にとってはデメリットが大きくなるわけです。

ここでは、被害者側にとって「人身事故で処理されることのメリット」を解説します。

人身扱いのほうが物損以外の損害賠償の請求がしやすい

何度か述べていますが、物損事故で賠償される範囲は原則として「物」にとどまります。つまり、人が怪我をした場合でもその通院費などは補償されません。

しかし人身事故で処理されれば、被害者は治療費はもちろん、休業損害逸失利益、さらには後遺症が生じた場合はその賠償金までも請求できます。

お金の問題に煩わされることなく、怪我が癒えるまでしっかり休むことも可能になるのです。

実況見分調書が作成されるため過失割合で揉めにくい

少し分かりにくいのですが、物損事故の場合は「物件事故報告書」というものが作られます。これは「実況見分調書」とは似て非なるもので、あくまで「事故が起きたときの記録」に過ぎません。

しかし実況見分調書は、現場の状況などをもっと細かく記した書類です。これは交通事故の過失割合を決める際に重要な証拠となるものです。保険会社から支払われるお金はこの「過失割合」に基づいて決められますから、この実況見分調書を作成してもらうことが非常に重要になるのです。

物損扱いから人身扱いに切り替える手順は

交通事故により現れた症状

▲交通事故により現れた症状のアンケート結果

交通事故で代表的なむちうちは、後から痛みが出てくる特徴があります。また、上記のアンケート結果のように、交通事故では思いもよらない症状が現れる可能性があります。

物損事故と人身事故の違いが分かっておらず、物損事故での処理に合意してしまった……でもその後で痛みが出てきて……もういまさら遅いのかな」という人もいるでしょう。

しかしあきらめる必要はありません。きちんとした手順を踏むことで、物損事故を人身事故に切り替えることは可能になる場合もあります。(※「すべてのケースで、100パーセント切り替えに成功できる」というわけではありません)。

物損事故から人身事故へ切り替える手順・流れ

▲物損事故から人身事故へ切り替える流れ

まず病院で診断書を作成してもらう

物損事故から人身事故への切り替えを行う際にもっとも重要なのは、「医師による診断書」です。

「事故によって人が怪我あるいは死亡した場合」でなければ、人身事故として認められないからです。

そのため病院に受診をして、診断書を書いてもらいましょう。なおこのときには、その怪我が交通事故によって生じたものであるかどうかが証明できなければなりません。

怪我をしてから時間が経つと怪我と交通事故の因果関係を証明することが困難になるため、早めに病院にいくようにしましょう。

また、診断書を出せるのは医師だけです。整骨院などではこれは受けられませんから、病院に行ってください。

事故から1週間〜10日までに診断書を警察署に提出

医師に診断書を作成してもらったら、それを持参して事故を管轄する警察署に足を運んでください。そして窓口で、「人身事故としての対応を希望していること」を伝えるようにします。

なお「いつまでにこの手続きをするべきか」に関しては、法律上の決まりはありません。

ただ何か月も経ってから申し出た場合は、当然怪我と交通事故の因果関係に疑いが持たれます。そのため、切り替えの手続きは可能な限り迅速に、遅くても10日以内程度までには行うべきです。

人身事故に切り替えが行われたら警察へ出頭する

無事に物損事故から人身事故への切り替えが行われたら、今度は警察署に出頭します。

上でも軽く触れましたが、人身事故の場合は警察が実況見分を行い、それを書類にまとめなければなりません。実況見分の際には、冷静に、第三者の視点で、事実だけを告げるようにします。

なお実況見分への立ち会いは、義務ではありません。しかし立ち会わなかった場合は加害者側の一方的な言い分だけを元に実況見分調書が作成される可能性が高いため、原則として被害者が立ち会うべきです。

怪我などでどうしても立ち会えない場合は、その旨を警察に相談しましょう。

関連記事交通事故で起こりやすい怪我とは|通院先や損害賠償請求も解説!

まとめ

まとめ

人身事故で処理されるか物損事故で処理されるかで、加害者側の受ける処分と、被害者側が受けられる保証・補償は大きく違ってきます

自分が被害者となった場合は、安易に物損事故で処理をさせることは避けて、人身事故での扱いになるように動くべきです。

また、加害者の立場となった場合でも、警察を入れてきちんと処理することで、結果的に起こりうるトラブルを防げると考えておくべきでしょう。

この記事を監修したのは…

交通事故関係、弁護士事務所・クリニック等でのコラム執筆を数多く経験。確かな情報収集力を元に、常に正しく信頼のおける情報を「誰であっても理解できるかたちで」わかりやすく丁寧に解説していきます。

この記事の執筆者

ライター / 鍋谷 萌子
ビジネス法務検定資格取得者。赤本を元に交通事故関係の記事を多数作成してきました。弁護士事務所・クリニックなどでのコラム作成経験が非常に豊富です。確かな情報収集力を元に、常に正しく信頼のおける情報を「だれであっても理解できるかたちで」、分かりやすく丁寧に解説していきます。

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