物損事故と人身事故の損害賠償の違いとは?<弁護士監修>
監修記事
五十部 紀英
弁護士
交通事故において、数々の解決実績を持つ『弁護士法人プロテクトスタンス』の五十部先生に、交通事故に遭ってしまったとき、損をしないためのコツを伺い、連載形式でわかりやすくお伝えするこの企画。
連載第2回目は、物損事故と人身事故の損害賠償についてインタビュー。
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目次
物損事故と人身事故の違い
交通事故は主に2つのパターンに分かれます。
相手がいる事故と、いない事故です。相手がいない事故を自損事故といいます。怪我人が出てしまった事故を人身事故、怪我人が出ず、物が壊れてしまった事故を物損事故といいます。
五十部先生:
「賠償請求が認められる損害は『財産的損害』と『精神的損害』に分けられており、さらに、財産的損害については『積極損害』と『消極損害』に分けられています」
物損事故で補償される損害は財産的損害のみ
損害賠償とは、交通事故によって出てしまった損害を現金に換算し支払い、相手に償うことをいいます。人身事故と物損事故では、損害賠償の内容が異なります。
賠償責任は損壊物
物損事故の損害賠償は、壊れた物に対してしか支払われません。
例えば、被害物が車の場合、元通りに修理できる、もしくは、買い替えることができるため、物に対する被害は「元通りに回復する」という考え方です。
一方、人身事故の場合、「人間の身体を事故前とまったく変わらない状態に治癒することは不可能であり、治療の過程に伴う精神的苦痛も相当なものである」と判断されます。
- 物損事故で認められる損害例
- 修理費用
- 評価損
- 代車使用料
- 買い替え費用
- 登録手続き費用
- 休車損
人身事故で補償される損害
人身事故の損害で補償される内容は、下記の通りです。
- 積極損害
治療費、入通院交通費、雑費、文書費など、交通事故による支出のこと。 - 消極損害
休業損害・逸失利益のことで、交通事故に遭わなければ受け取れたはずのお金のこと。 - 慰謝料
交通事故による精神的ショックを現金に換算したもの。自賠責保険の場合は、1日あたり4,300円。
大切な愛車が壊れたら…物損事故で慰謝料は出る?
慰謝料というのは、精神的苦痛を現金に換算したものです。
怪我をして治療が必要となった場合のみ「入通院慰謝料」が発生するため、物損事故として処理された場合には保障されません。
しかし、「長年愛情を注いできた車」「世界に一つしかないカスタム車」「型式の古い高級車」など、怪我をしていなくとも精神的なショックはあるはずです。
――自分が大切にしている車が壊れてしまった時も、精神的な苦痛はあると思います。こういった場合でも、どうしても慰謝料は出ないものでしょうか。
五十部先生:
「その車が、“世界に一台しかない”とか、何か思い入れがある場合、慰謝料が出る可能性はあります。物損事故で本人への慰謝料として認められた過去の裁判例を3つご紹介します。
1つ目は、長年飼っていたペットが亡くなった時。ペットに対する本人への慰謝料です。
2つ目は、車がお墓に突っ込んでしまい、墓石が倒壊してしまった時。
3つ目は、1年かけて製作された芸術作品が、事故により壊されてしまった時。
型式が古い車や高級車で部品を取り寄せなければならない場合でも、修理代や部品代として計上されます」
物損事故でも病院に行くべき?
交通事故が起きた時、特別大きな怪我が見当たらなければ、多くの場合は「物損事故」として処理をされます。
しかし、いくら物損事故として処理をされたとしても病院には必ず行くべきです。
交通事故直後は痛みがなくても、手続きが落ち着き普段の生活に戻ると痛みが出てくるケースがあります。そのため、痛みがなくてもなるべく早いうちに整形外科へ行き、レントゲンやCTといった精密検査を受けるようにしましょう。
――物損事故として処理をされた場合であっても、病院に行って診断を受けるべきですか?
五十部先生:
「プロテクトスタンスでは、ほとんどの依頼者が遅くとも3日以内に初診に行かれていますので、なるべく早く通院された方が良いでしょう。
できれば、交通事故にあってから1週間以内に整形外科に行き、医師の診断を受けましょう。なぜかというと、交通事故のケガは、痛みや症状が遅れて出てくることがあります。
事故発生から時間が経って診断をしても、その怪我と交通事故との因果関係が証明できず、のちに人身事故として切り替えられなくなることもあるからです」
ーー物損事故から人身事故に切り替えないとどうなりますか?
五十部先生:
「物損事故の場合、怪我人は出ていないため、治療費を請求することはできません。また、精神的損害の慰謝料を請求できません」
物損事故から人身事故に切り替えるには?
物損事故として処理された場合、治療費や慰謝料を請求するためには、人身事故への切り替えが必要です。
主な流れは以下の通りです。
- 整形外科に行って診断書をもらう
- 加害者側の保険会社に連絡をしておく
- 事前に、事故現場を管轄している警察署にあらかじめ連絡を入れておく
- 事故現場を管轄している警察署の交通捜査係に届け出て、手続きをする
診断書を取得後、あらかじめ連絡しておいた管轄の警察署に行き、人身事故への切り替えをしたいことを伝えます。
関係する書類を提出してから実況見分などが行われ、認められれば人身事故に切り替えをしてもらうことが可能です。
五十部先生:
「プロテクトスタンスでは、人身事故への切り替えを案内し、切り替える方が多数いらっしゃいます」
ーー人身事故への切り替えを認めてもらえなかった場合は?
五十部先生:
「“人身事故証明書入手不能理由書”という書類があります。それを取り付けると、物損事故でも人身事故と同じ扱いをしてくれるようになります。
駐車場などの私有地内での交通事故の場合、公道ではありませんので、交通事故証明書が発行されません。
そういう場合には人身事故証明書入手不能理由書を取り付けて、人身事故として処理してもらうという例外的なケースもあります」
人身事故へ切り替えたら?
次回は、「人身事故に切り替えた後の通院について」引き続きお話を伺います。
また、どのように使えばいいのか分からない弁護士費用特約や、交通事故の知識がある弁護士に依頼するコツも併せてご覧ください。
この記事を監修したのは…
- 五十部 紀英(いそべ としひで)先生
弁護士法人プロテクトスタンスの代表弁護士として、多くの病院やクリニック、整骨院等の法律顧問に就任。医事法に関する専門的な研究部会に所属しており、医療法制に精通するほか、一般社団法人予防医療普及協会の顧問も務める。交通事故の示談交渉における豊富な解決実績があり、特に保険会社への対応には定評がある。 - 経歴
上智大学文学部国文学科 卒業
中央大学法科大学院 修了(61期)
2012年 前身となる法律事務所を設立
2014年 弁護士法人として法人化
2017年 税理士法人を設立し、代表税理士に就任
2018年 行政書士法人を設立し、代表行政書士に就任
2018年 スポーツマネジメント会社を設立し、代表取締役に就任
2018年 社会保険労務士法人を設立し、代表社会保険労務士に就任
2019年 弁理士法人を設立し、代表弁理士に就任
会社概要
- 弁護士法人プロテクトスタンス(公式HP)
「優れた法律サービスと満足を全ての人に」という理念のもと、業界のルールや慣習から解放されたような、新しい法律事務所。テレビやラジオ出演、webサイトからのインタビュー・記事制作、ドラマ・映画・報道番組の法律監修や制作協力、書籍の執筆など、各メディアからも注目を浴びている。 - 住所
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