交通事故の治療費に健康保険は適用される?使う方法やデメリットを解説
監修記事
鍋谷 萌子
ビジネス実務法務検定3級
だれもが対象となりうるもの、それが「交通事故」です。道路を使う以上、私たちは交通事故とは無縁ではいられません。
交通事故は1日に800件以上も起きているといわれており、少なくない人が交通事故によって怪我をしています。
ここではそのような「交通事故の怪我」を取り上げ、
- 交通事故に健康保険は適用されるのか
- 交通事故で健康保険を使う場合のデメリット
- 交通事故と健康保険についてのよくある質問への回答
について解説していきます。
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交通事故後の治療費にも健康保険は適用される
まず、「交通事故に健康保険を使えるかどうか」について解説していきます。
健康保険は公的な保険制度であり、人が怪我や病気をしたときの医療費を補助するために作られた保険です。怪我や病気の治療費は非常に高額ですが、この健康保険を使うことで自己負担分1~3割(※収入などによって負担割合は異なる)で治療を受けられるようになります。
交通事故による怪我でも、健康保険を使った治療自体は可能です。
ただし、状況によって異なるのでひとつずつ説明していきます。
通勤・業務中の交通事故による怪我には労災給付が優先
交通事故による怪我は健康保険を使って治療していくことができます。
しかし、通勤中や業務中に交通事故にあった場合は、健康保険よりも、労災保険が使われます。
- 労災保険
労働者災害補償保険。通勤中あるいは業務中に怪我などを負った場合に利用される保険であり、社会保障制度のうちのひとつ
ただ、労災であると認定されるまでには少し時間がかかります。そのため、労災であると認定される前は健康保険を一時的に利用でき、労災と認定された場合は労災指定の病院で治療していくことになります。
自損事故での怪我の場合は給付制限による
「交通事故による怪我」というと、「だれかにぶつかられた場合」を想定する人が多いことでしょう。
しかし実際には、「自分で車を運転していて、ガードレールにぶつかった」といった、自分の過失で起きた事故で怪我をする場合もあります。
自損事故の場合は、その怪我が健保法第116条に抵触しないかどうかを確認・決定してもらうために届け出を行わなければなりません。
被保険者又は被保険者であった者が、自己の故意の犯罪行為により、又は故意に給付事由を生じさせたときは、当該給付事由に係る保険給付は、行わない。
引用:e-GOV「健康保険法」
健保法第116条とは、ごく簡単に言えば「酒酔い運転のような犯罪行為や、自殺を目的とした理由で事故を起こした場合は、それによって起きた怪我には健康保険を使えない」ということです。
自損事故の場合、このような事由によるものではないと証明するために、届け出が必要になります。
通院における自賠責保険と健康保険の違い
交通事故のときによく使われる保険として、自賠責保険があります。
自賠責保険とは、法律によってすべての自動車に加入することが強制されている保険であり、被害者の救済を主な目的としています。
また、車を運転する人のうちの90パーセント近くが、任意保険にも加入しています。
このような保険に加入している人が加害者となった場合、被害者の治療費は基本的には加害者側の保険会社が支払います。
しかし上記でも述べたように、交通事故の治療に健康保険を使うこともできます。
それでは、健康保険を使って治療していくメリットはどこにあるのでしょうか。
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交通事故による治療費で健康保険を使うメリット
交通事故の被害者となった場合、あえて健康保険を使って治療していくことにはいくつかのメリットがあります。
- 窓口での自己負担額を抑えられる
- 高額療養費制度を利用できる
それぞれ解説していきます。
窓口での自己負担額を抑えられる
健康保険で治療費を払うと、治療費が抑えられます。これには2つのパターンがあります。
①被害者側の過失割合が大きい
交通事故は、過失割合によって支払う治療費の割合が変わります。
たとえば加害者6割、被害者4割の過失割合で、かつ治療費が100万円かかった場合、加害者が60万円、被害者は40万円の支払いとなります。
しかし健康保険(自己負担3割)を使った場合、治療費の総額は30万円(100×3割)、加害者は18万円(30万円×6割)、被害者は12万円(30万円×4割)となり、自己負担が軽減されます。
②加害者側の支払いが打ち切りになった
被害者であっても、いつまでも治療費を請求できるわけではありません。怪我が治ったあるいはこれ以上症状が改善しないと判断されれば、加害者側の保険会社による治療費の支払いは打ち切られます。
ただそれでも痛みがあり治療を継続したい場合は、自費で治療を続ける必要があります。この場合、自分の健康保険を使って通うことで負担を抑えて治療を受けられます。
POINT
交通事故による通院であえて健康保険を使う2つケース
1.被害者側の過失が大きい
2.加害者側による治療費の支払いが打ち切られてしまった
高額療養費制度を利用できる
大きな怪我をして入院や手術が必要になったときに「高額療養費制度」を利用できるのも、健康保険で治療することのメリットです。
高額療養費制度とは「1か月にかかった医療費が多額になった場合は、上限額までの支払いあるいは自己負担金額を大幅に抑えた金額しか支払わなくてもいい」とする制度です。
所得によって自己負担額には差がありますが、所得が低い人の場合は最大で35,400円、所得が201万円を超える場合は段階的に「一定金額(医療費-一定金額B)×1パーセント」の自己負担金を払うだけで治療を受けられるようになっています。
ただ、最終的にはこの制度を利用できるとしても、窓口では一時的に治療費を支払わなければなりません。
それも大きな負担である場合は、あらかじめ「限度額適用認定証」を取得しておくことで、初めから高額療養費制度の金額が反映された後の自己負担金額しか支払わなくて済みます。
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交通事故による治療費で健康保険を使うデメリット
ここまで、交通事故で健康保険を使うことのメリットを解説してきましたが、これを使うことにはデメリットもあります。
ここからは、デメリットについても解説していきます。
交通事故による怪我であると届け出る手続きが必要
交通事故で負った怪我を治療するときに健康保険を使いたい場合は、第三者行為による傷病届を提出する必要があります。
この届出を行わなければ、健康保険給付の費用を加害者側に請求できなくなります。また、被害者側は「どのような状況で怪我を負ったのか」という調査に協力する義務を負います。
この2つは義務であり、拒むことはできません。
また、第三者行為による傷病届は、治療費の支払いについて例外的な取扱いを認めるもので、必要な手続きも複雑です。
原則としては加害者側の保険会社による一括対応や自賠責保険の被害者請求による支払いを行うといいでしょう。
なお、この「第三者行為による傷病届」を出す前に示談に応じてしまうと、治療費の請求を拒まれる可能性もあります。
保険診療の範囲内の治療しか選択できない
健康保険を利用して治療する場合は、保険診療内の範囲内でしか治療ができません。
そのため、自由診療の範疇に含まれる治療は受けられなくなります。
軽症の場合は、基本的には保険診療内での治療で事足りるでしょう。しかし重症の場合は、自由診療を受けることも視野に入れて、検討しなければなりません。
自賠責保険と違い窓口負担が発生する
健康保険を使って治療していく場合、「一時的とはいえ、窓口で被害者がお金を支払わなければならない」点にも注意してください。
被害者はまず病院などにお金を支払います。その後に、被害者が上記で述べた第三者行為による傷病届を健康保険組合に出します。そののち、被害者側が加害者側に対して自己負担額の支払いを要求して初めて、加害者側からお金が支払われます。
窓口の支払い段階のときは、無料にならないことは抑えておきましょう。
交通事故の治療費にまつわるQ&A
最後に、交通事故の治療費にまつわるよくある質問について、Q&A方式で答えていきます。
- 交通事故における医療費の負担割合
- 健康保険が使えない場合とは
- 加害者の治療費はだれが払うのか
を取り上げます。
交通事故による医療費は何割負担してもらえる?
被害者側であっても過失割合が高い場合は医療費の負担は大きくなります。
また、健康保険を使って治療する場合は、健康保険の自己負担割合によって金額が変わります(健康保険の自己負担割合は、収入や年齢によって異なります)。
治療費100万円で健康保険の自己負担割合が3割の場合、以下の通りになります。
被害者の過失 | 健康保険利用時の被害者が支払う金額 |
---|---|
1割 | 治療費100万円×過失1割×自己負担3割=3万円 |
2割 | 治療費100万円×過失2割×自己負担3割=6万円 |
3割 | 治療費100万円×過失3割×自己負担3割=9万円 |
4割 | 治療費100万円×過失4割×3割=12万円 |
交通事故で健康保険が使えない場合があるのはなぜ?
交通事故に遭った状況が、通勤途中あるいは業務中の場合は、労災保険が優先されます。そのため、健康保険は使えません。
また、自殺などを試みた場合や、酒酔い運転などのい方法行為による事故の場合は、健康保険は使えません(ただし精神の障がいによって自殺を試みた場合は、例外的に健康保険での治療が可能となる場合もあります。
交通事故を起こした加害者の治療費は誰が払うの?
交通事故の加害者が怪我をした場合であっても、自賠責保険は使えます。ただし上限額が定められているうえ、加害者の過失が多い場合は支払われないあるいは減額されます。
なお、任意保険の人身傷害特約といった保険に加入していた場合は、過失割合によらず、一定額までは治療費などの補償が受けられます。詳しい金額や補償内容は、保険会社や契約内容により異なります。
まとめ
交通事故が起きたときにどのように対応するべきか、治療費はどのようなかたちで支払っていけばいいのか、どのような保険を使えばいいのかを知っておくことで、交通事故が起きた時にも冷静に対応することができるようになります。
特に日本では「国民皆保険」の考え方のもと、だれもが健康保険に入っているため、「交通事故にあったが、治療費が高すぎて支払えない!」という状況になることはありません。
交通事故は、だれもが被害者・加害者になりうるものです。交通事故のリスクを0にすることは、だれにもできません。だからこそ、「起きたときにどのように対応するか」を知っておくことが重要です。
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この記事を監修したのは…
交通事故関係、弁護士事務所・クリニック等でのコラム執筆を数多く経験。確かな情報収集力を元に、常に正しく信頼のおける情報を「誰であっても理解できるかたちで」わかりやすく丁寧に解説していきます。
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