むちうちの症状が続く期間は?痛みが引かないときの対処法と休業損害
監修記事
福山 泰平
医師(整形外科他)
交通事故で首に強力な外力を受けた時に、むちうちの症状を経験した人はいるでしょう。むちうちの症状はさまざまであり、治療をしてもなかなか症状が緩和されないことから不安に感じる人は多いです。
そもそも、むちうちの病態や治療期間について知らない人もいるのではないでしょうか。今回は、むちうちになってしまった場合の適切な対応について解説していきます。
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目次
むちうちに当てはまるかセルフチェック
交通事故にあうと様々な症状が現れます。症状はあるけど、むちうちかどうか分からないといった方は次のセルフチェックを試してみましょう。
- 痛む場所が変わることがある
- 頭痛、倦怠感、睡眠不足、めまいなどが多い
- 以前より集中力が低下しているように感じる
- 運動をすると症状が出現する
むちうちは痛みだけではなく、集中力の低下やめまいなどの症状を引き起こすことがあります。上の項目のうち、2つ以上当てはまる場合はむちうちの可能性が高いです。
むちうちの主な症状
むちうちと聞くと、「首の痛み」を想像する人が多いと思いますが、実際には痛み以外にもさまざまな症状を認めます。
- 腕や手のしびれ、脱力感
- 頭痛
- めまい
- 肩や腰の痛み
- 不眠
- 倦怠感
首には筋肉だけでなく、血管や神経などのさまざまな組織が存在します。交通事故により首に衝撃が加わって神経を損傷してしまうと、腕や指先にしびれや脱力感を伴うことがあります。
また、痛みを回避することで姿勢が崩れてしまうと偏った筋肉の使い方をしてしまうため、負担がかかりすぎることで肩や腰などの首以外にも痛みや倦怠感が出現することもあるでしょう。
むちうちでは自律神経が障害を受けることも多く、不眠やめまいといった症状を認めると、日常生活に支障を来たすこともあります。
関連記事むちうちはどんな症状?治療方法や完治までにかかる時間
むちうちは種類によって症状が変わる
むちうちは痛みだけでなく、しびれや脱力感などの神経症状や、めまいや不眠などの自律神経症状から5つに分類されます。
ここでは、自覚している症状からどのような分類に当てはまるのか解説していきます。
- 頚椎捻挫型
- 神経根損傷型
- バレー・ルー症状型
- 脊髄症状型
- 脳髄液減少症
頚椎捻挫型
頚椎捻挫型とは、強い外力により首の筋肉や靭帯などの軟部組織が損傷して炎症反応が生じている状態です。
むちうちの症状で最も多く、その割合は7〜8割だと言われています。診断名では頚椎捻挫、頸部挫傷、外傷性頚部症候群などと表記されることもあり、症状は主に首や背中の痛み、肩こり、動きの制限になります。
損傷した軟部組織は時間の経過で治癒して痛みが軽減していくので、第一選択は痛み止めの使用や安静、固定です。
神経根損傷型
脊髄から手足に向かって出る神経の根本を神経根と言い、神経根を損傷するむちうちが神経根損傷型になります。
交通事故の衝撃で神経根を損傷していたり、頚椎や椎間板のずれによって圧迫されることで発症します。
主な症状として、首から指先にかけてのしびれや痛み、脱力感だけでなく、後頭部や顔面に痛みを伴うことも特徴です。
他にも頚椎症性神経根症と診断され、咳やくしゃみで症状が悪化することがあります。
バレー・ルー症状型
交通事故の衝撃により、交感神経と副交感神経からなる自律神経が障害されるものをバレー・ルー症状型、または後部頚交感神経症候群と言います。
自律神経の中でも交感神経が優位になりやすく、主な症状は頭痛やめまい、吐き気、不眠などの自律神経障害であり、不定愁訴と呼ばれることも。
MRIやCTなどの精密機械を用いた他覚的所見でも見つかりにくいことが特徴です。
脊髄症状型
背骨には脊柱管と呼ばれる脊髄の通り道が存在します。脊髄症状型とは交通事故の衝撃により脊髄自体が損傷することであり、5つの種類の中で最も重症度が高くなります。
頚椎の脊髄(頸髄)は主に上半身の運動や感覚を支配していますが、完全に損傷すると体幹や下半身の機能も障害されます。後遺症が残りやすく、場合によっては手術が必要になるので注意が必要です。
他にも、脊髄損傷、頚椎症性脊髄症などと診断されることがあります。
脳髄液減少症
脳は髄液が満たされた空間で保護されており、これらを覆っているくも膜や硬膜に傷がついて髄液が漏れ出てしまうことを脳髄液減少症と言います。
主な症状はめまい、頭痛、耳鳴り、吐き気などです。特徴として、雨などの気圧によって変動する、体を起こしていると症状は強いが、横になると緩和するなどが挙げられます。
基本的には交通事故などの強い衝撃がなければ起こり得ません。他にも低髄液圧症候群と呼ばれることもあります。
むちうちの症状の発症時期
むちうちには急性期、慢性期と呼ばれる期間があり、症状の段階が異なります。時間経過の中でむちうちの症状は変化していくので、今がどの時期なのかを知っておくと良いでしょう。
ここでは、むちうちの発症時期について解説していきます。
急性期
急性期は、だいたい交通事故にあった直後〜1ヶ月の期間のことをいいます。
この時期は交通事故によって軟部組織が損傷しているため、炎症反応がみられる時期です。特に炎症期間である3日〜1週間は痛みが酷く、この期間は患部を冷やして安静にしておくことが重要です。
慢性期
慢性期は、受傷から3ヶ月以降のことをいいます。慢性期になると、痛みもほとんど和らぎ、手技療法が行えるようになります。
このことから、むちうちの痛みは急性期のなかでも特に3日〜1週間ということになります。しかし、痛みの期間は症状の度合や人によって異なってくるので、あくまでも目安として認識しておいてください。
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むちうちの症状や痛みが続くのはいつまで?
一般的な治療期間は平均して2ヶ月前後だと言われていますが、7割ほどの被害者は3ヶ月で治癒しています。
しかし、6ヶ月以上の長期間にわたって治療を受けている方も少数ではありますが存在するため、決して短期間で治癒するものだと油断しないようにしましょう。
むちうちの頚椎捻挫型のように筋肉や靭帯だけの損傷であれば、炎症反応や治癒過程を経て徐々に修復していきます。
軽症例では数週間で改善しますが、神経損傷を含めた器質的要因だけでなく、心理的・社会的要因の関与によっては遷延化することもあります。
例えば、安静が必要な時期に無理に動かしてしまう、正確に診断されず、適切な治療が受けられない場合などが該当するでしょう。
むちうちの症状がでたときの通院先
むちうちの痛みが引かない時に、どこに通院したら良いか知らない人もいるのではないでしょうか。むちうちの通院先は病院などの整形外科や整骨院・接骨院の2つになります。
ここでは、それぞれの通院先の特徴について解説していきます。
病院・整形外科
むちうちの症状を認めたら、整形外科がある病院を受診しましょう。整形外科にはMRIやCT、レントゲンといった精密機器などの設備が充実しており、医師による正確な診断を受けることが可能です。
また、必要に応じて手術や痛み止めの処方、医療国家資格である理学療法士によるリハビリを受けることができます。
慰謝料の請求や後遺症による後遺障害認定の申請時には、医師が作成する診断書が必要になるため、初回は医師の診察を受けておきましょう。
整骨院・接骨院
交通事故で発症したむちうちは、整骨院・接骨院で医療国家資格の柔道整復師による施術を受けることができます。
柔道整復師とは、徒手療法、物理療法、運動療法を組みあわせて症状の緩和にアプローチするスペシャリストです。
整骨院・接骨院は医師が在籍していないため、まずは整形外科による正確な診断を受けてから、治療方針を主治医と相談するようにしましょう。整形外科を定期的に受診し、整骨院・接骨院の通院を併用することは可能です。
むちうちの症状がでた際の治療費や慰謝料
- 「慰謝料には、どのような慰謝料があるのか。」
- 「仕事を休んでしまい、減給にならないか心配。」
- 「治療が長引いてしまい、いつまで加害者側の保険会社が支払いを続けてくれるか不安。」
このようなお悩みはありませんか?
以下では、交通事故の慰謝料と休業損害、治療費の支払い期間について説明していきます。
交通事故の2つ慰謝料
交通事故にあった被害者は、「入通院慰謝料」と「後遺障害慰謝料」というものを受け取ることができます。
- 入通院慰謝料:入通院慰謝料とは、交通事故による怪我で、入院や通院をしたことによる精神的苦痛の対価として支払われるものです。
- 後遺障害慰謝料:後遺障害慰謝料とは、交通事故が原因の怪我で、後遺症が残ってしまったことによる精神的苦痛の対価として支払われるものです。
なお、後遺障害慰謝料は、交通事故が原因の怪我のうち、後遺障害の等級に該当するものにしか支払われません。
関連記事交通事故の後遺症で認定される後遺障害等級14級とは?慰謝料の基礎知識について解説!
仕事に支障が出たら、休業損害を請求する
交通事故による怪我で仕事に支障が出たとき(会社を休んだ、以前のように仕事ができず減収になったなど)は、休業損害という賠償金を受け取ることができます。
休業損害を受け取ることができるのは、以下に該当する方です。
- 現在働いており、収入のある方
- 専業主婦
なお、就職が内定している方や現在就活中の休業者は、休業損害の対象者として認められることもあります。
治療費の支払いは、いつまで続く?
なかなか症状が緩和せず、治療が長引いてしまうこともありますよね。そんなとき、治療費はいつまで負担してくれるのでしょうか。
保険会社が支払いをしてくれる期間は、以下が目安です。
- 怪我の症状が完治したとき
- 怪我の症状がこれ以上の回復が見られないとき(=症状固定)
しかし、むちうちのような症状が完治・症状固定になる前に、保険会社が治療費の打ち切りを打診してくることもあります。
治療費の打ち切りを打診してくる目安は、以下のとおりです。
- 打撲:1ヶ月
- むちうち:3ヶ月
- 骨折:6ヶ月
治療費の打ち切りは、通院頻度の低さや治したいという意識の低さが原因になることもありますので、治療をする際はこれらのことに気をつけましょう。
むちうちが後遺症になってしまったら
怪我の治療を続けても症状が緩和されない場合、「後遺症」が残ってしまう可能性があります。後遺症になってしまったら治療費の支払いは打ち切られてしまうため、被害者は自費で通院を続けなければいけません。
しかし、後遺障害等級が認定されると後遺障害慰謝料の支払いを受けることができます。医師に「症状固定」と判断され、後遺症になってしまった場合は、後遺障害等級認定の申請を行いましょう。
後遺障害等級認定を申請しましょう
後遺障害等級とは、後遺障害に1〜14級までの等級がついたものです。1級が最も重い症状となり、14級が最も軽い症状となります。
後遺障害等級が認定されると、等級に応じて後遺障害慰謝料の支払いを受けることができます。後遺障害慰謝料の金額は、症状が重くなるにつれて増額していきます。
後遺障害等級認定の申請方法は、2つ。
- 加害者請求
- 被害者請求
それぞれの方法を詳しく見ていきましょう。
加害者請求
加害者請求は、後遺障害等級認定の申請手続きを、加害者側の任意保険会社に任せる方法です。被害者がすべきことは、病院で取得した後遺障害診断書を、加害者側の任意保険会社に提出することのみです。
加害者請求を行うことによって、被害者は手続きの手間を省くことができます。しかし、加害者側の保険会社に全て任せるため、どのような内容で手続きが行われているのか、被害者は知ることができません。
後遺障害慰謝料の支払いを行うのは、加害者側の保険会社です。したがって、被害者に対して有利になるような手続きを行ってくれるとは限らないのです。
被害者請求
被害者請求は、加害者側の自賠責保険会社に対して、後遺障害等級認定の申請手続きを被害者本人が行う方法です。被害者は手続きに必要な書類を自分で集め、加害者側の自賠責保険会社に送る必要があります。
加害者請求に比べると手間がかかってしまいますが、被害者自身が内容を理解・納得しながら手続きを進めていくことができます。また、必要書類の他に、被害者にとって有利になるような書類を付け足すこともできます。
まとめ
今回は、交通事故に多いむちうちの症状について解説しました。むちうちは痛みだけでなく、しびれや脱力感などの神経症状や、不眠、めまいといった自律神経症状などさまざまです。
一般的には2〜3ヶ月前後で治療を終える人がほとんどですが、人によっては6ヶ月以上と長引く場合があります。
慰謝料の請求や後遺障害認定の申請には医師の診察や診断書が必要になるため、初回は整形外科を受診して主治医と相談しながら通院するようにしましょう。
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この記事を監修したのは…
品川大井町整形外科・リハビリクリニックの院長。これまで交通事故患者の受け入れ実績は1000件以上。交通事故の怪我の治療やリハビリにも力を入れている。交通事故の怪我の治療はもちろん、後遺症や事故後の手続きなどの相談も可能。
品川大井町整形外科・リハビリクリニック
https://shinagawa-oimachi-seikei.clinic/
資格:
日本整形外科学会認定 整形外科専門医
日本整形外科学会認定 リウマチ医
日本整形外科学会認定 リハビリ医
日本運動器科学会 リハビリ指導医
経歴:
神戸大学医学部 卒
神戸大学医学部大学院(医学系研究科) 卒
大阪大学医学部大学院(医学系研究科)特別研究生
M. D. & Ph. D.
神戸大学医学部附属病院
神戸労災病院
三菱神戸病院 など
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